金田一耕助の狂笑──片岡千恵蔵&長谷川博己『獄門島』

ラピュタ阿佐ヶ谷石上三登志スクラップブック ミステリ劇場へ、ようこそ。2018》

備忘 3月某日『獄門島(ごくもんじま)』〔総集篇〕(1949東横 松田定次)

http://www.laputa-jp.com/laputa/program/mystery2018/sakuhin3.html#22

(結末あり注意) https://movie.walkerplus.com/mv27036/

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↑ 右下 片岡千恵蔵 喜多川千鶴 左 朝雲照代。白黒。千恵蔵 版 金田一耕助シリーズは今特集で先に上映された第1作『三本指の男』(47)を観逃し悔やまれるが 唯一の既見作である一昨年上映の最終作『三つ首塔』(56)はなかなかの傑作だった記憶。が この第2作(※正確には『正篇』『解明篇』の2作に跨る)は個人的には甚だ芳しからざる印象。理由は一に懸かって千恵蔵 演じる金田一のキャラ設定にあり 終始薄笑いを浮かべて「自分だけは全てお見通し」感を振り撒く(それでいて結果的には事件を防げず)謂わば〈根拠なき上位者〉気質が如何ともむず痒く。他の瑕疵には目を瞑れても(と言うより善いミステリファンではないので伏線&推理の不足や原作との相違等はほとんど気にならない)この点が大きな不満となり楽しめず仕舞い。またそれと関連して脳裏に強く残るのが終盤真相看破後の金田一の哄笑だが これも事件の(とくに動機の)異常性を唯1人知る者としての〈上位者〉気どりの嘲笑──それも犯人を笑うわけではなく かと言って自虐の笑いでもなく ただ状況の莫迦々々しさそのものを意味もなく嘲笑う──に過ぎず 好感持ち難し。

 

…と言うところで この〈笑い〉を横溝正史の原作『獄門島』にあたると 金田一がある重要手がかりに気づいたあとでそれに該当しそうな一節が。「耕助はゲタゲタととめどもなくわらい出した。腹をかかえてわらいころげた。涙があふれて頬をつたったが、それでもわらいやめなかった。」千恵蔵版はこれをより終盤に移したものと見られるが 原作でのこの笑いの理由は直後の金田一自身の台詞の一部=「ああ、おれはなんというバカだったろう」のとおり 目の前にあった最重要点に気づかずにいた滑稽さひいては自分の愚かさへの皮肉+手がかり自体が意味する歪な可笑しさ+真相が漸く見えたことの嬉しさも当然含み…と言うあたりになると思われる(他にも要因併存の可能性あり)。

この点を他の映像作品であたると まず石坂浩二版『獄門島』(77)での金田一はこれに相当する〈笑い〉はどの時点でも発していないように。また同年のテレビでの古谷一行版『横溝正史シリーズI・獄門島』では原作とほぼ同じところで笑っている──但し原作や千恵蔵版のような哄笑とまでは行かず 自嘲と嬉しさ半ばする苦笑の域。

 

そこで今般動画視聴したNHKドラマ版『獄門島(ごくもんとう)』(2016 吉田照幸)。

https://www6.nhk.or.jp/drama/pastprog/detail.html?i=4031

https://www.nhk.or.jp/bs-blog/600/256483.html

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↑ 奥田暎二 長谷川博己。ミステリとしてのみならず諸面において優れたドラマで驚かされたが 最注目は主演 長谷川の金田一像。一般的にはエキセントリックを極めたキャラ設定と見られているようだが 個人的感想は真逆で 過酷な戦場と引き揚げを経た直後の精神状態表現としては自然なものであり 問題の〈笑い〉についても 同時進行の「無駄無駄無駄!」の絶叫と共に単に狂騒的人格の表出とする見方は馴染めず 真犯人との最終対決の渦中で敗北感と勝利の歓喜とが混然となった矛盾極まる心理の爆発として大いに至当なものと感じられた。敗北感は即ち犯人が提示した手がかりを読みとれなかった(しかもそれを最後で犯人に指摘された)ことであり 勝利は犯人の努力も実は「無駄」なものだったと宣言できたことであり 自分の惨めさを 敵のより以上の惨めさによって帳消しにしようと焦る 名探偵なるがゆえの激しい危機感が図らずもあの哄笑と咆哮となって表われたのでありその一連の流れの自然さには共感大。一方犯人側も勝利と絶望を同時に感受し 両者の虚無的闘いのシーンは嘗てない攻防の迫力。

…と書き乍ら ほぼ同じ意見(と勝手に見做す)を『21世紀本格ミステリ大全』(2018原書房)でのこのドラマの項で既に千街晶之氏が述べており 後塵の誹り免れず。ただ千街氏の「片岡千恵蔵が演じた金田一に通じるものがある」との指摘に関するかぎりは 上記の観点から異論あり 寧ろ正反対の探偵像同士ではないかと。

 

因みに 千恵蔵 石坂 古谷 長谷川の4例の中で 唯一笑っていない石坂金田一のみが戦地体験をしていない設定だが 偶然かあるいは何がしかの因果か。

 

 

 

 

蛇足 一番上の東横版『獄門島』ポスター 重要人物の一角 了然和尚 役の斎藤達雄の名がなく 端役 清水巡査役の小杉勇がラストクレジットなのが可笑しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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