久世光彦

 『悪魔のようなあいつ』DVD、入手した8巻までを昨年のうちに見終えていたところで、プロデューサー兼演出久世光彦の『一九三四年冬──乱歩』が文庫化されたので気になり入手して読んだ。

一九三四年冬―乱歩 (創元推理文庫)

一九三四年冬―乱歩 (創元推理文庫)

文章での久世光彦に接するのは初めて。そしたら驚いた、こういう人があの〈ドラマの久世〉でもあったのかと。架空の乱歩作『梔子姫』を執筆していた空白の4日間での妖しく魅惑的な洋風ホテルでの乱歩の冒険?が虚実入り混ぜ描き語られる。そう語るというより描くのほうが強いかもしれない、それほど全てが映像的で色彩的だ。戸川安宣氏の余人には書けない解説がまた面白い。生前の訪問時に「牧神社薔薇十字社サバト館などの小出版社が好き」といっていたなど思わずニヤリとしてしまう。そんな一言にも実は表われてることだが、これでこの久世という人の趣味というか世界がますます好きになった。それはドラマを通じて思ってたことが裏づけられたってことで(いやドラマは面白けりゃそれでいいので別に他で何かを裏づける必要なんてほんとはないんだが)、つまりこの人には倉本聰や山田太一みたいな(もっと含めれば市川森一も)説教臭さがまるでなくて、とにかく自分の美学──ていうのがカッコつけすぎな言葉だったら嗜好とか趣味でも何でもいいが──にのみ忠実になろうとした人だってこと。そこが最大最高の魅力だ、映像でも文章世界でも。

でずっと前文庫の古本で買っといたままだった『昭和幻燈館』も気になってきたのでこの際読んだ。

昭和幻燈館 (中公文庫)

昭和幻燈館 (中公文庫)

そしたらこれがまた… いやー久世光彦凄い。ただの懐旧じゃない、妖しいまでの艶かしさが横溢してる。ナチの軍服を堂々と賛美できないようじゃダメだなんて、倉本山田市川あたりにはとてもいえないことだ(そのいい方が説教じゃないところがまたいい)。上の『乱歩』執筆のヒントかもしれないあるエピソードが含まれてるのも興味深い。

 

ところで『悪魔のような…』だが、そんなこともあって(どんなことや)先日帰宅の折に入手分の最終8巻目を見直した。

f:id:domperimottekoi:20080621220155j:plain

 あらためて凄いドラマだこれは。但しそれはあくまで個人的なことであって、他人が見てどう思うかなんてことはどうでもいい。というより自分以外の他人には解らないだろうな、ぐらいのもんだ。とくにあの時代を共有してない若い世代の連中には解りっこないから、はっきりいって見なくていい。デイヴ平尾がどういう歌手だったか、レコード大賞とった尾崎紀世彦がどうしてあんな悪役やらなきゃならないか、といった感覚が解らないとこのドラマを見る意味はない。なぜならそうしたこと〈こそ〉がこのドラマの〈真のテーマ〉であって、ストーリーなんて二の次三の次、というよりむしろ邪魔っけ程度のものでしかないのだから。

だからDVDも未入手の9巻目は見る必要性をあまり感じない。というより見ることによってその世界が終わってしまうのがもったいないから、見ないでいるほうがいいかもしれない。それぐらい気に入ってる。だから見てよかった、たとえ8巻まででも。

ってことで ↓ 三木聖子(沢田研二の妹役)「さよならのマリーナ」自前UP。写真は『悪魔の…』より。



 久世光彦、恐るべし。

f:id:domperimottekoi:20130430015611g:plain

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.