末國善己編『志士 吉田松陰アンソロジー』(新潮文庫)を読む。
http://www.shinchosha.co.jp/book/126361/
来年の大河『花燃ゆ』の背景となる松下村塾。有名なのにもうひとつピンと来ないこのサークル周辺の群像を歴史&時代小説の名手たちに再生させる入門傑作集。「幕末に光芒を放った六人の人物を取り上げ」「現代人も共感できる普遍的なテーマを持った名作をセレクト」(編者解説)、思想や政治の難しい面より恋愛や悲劇など判り易い話が選ばれていて惹き込まれる。古川薫「吉田松陰の恋」はタイトルどおり松陰が獄中で出会った高須久子の視点で綴る。この高須という女性は実在で 『花燃ゆ』では井川遥が演じる由。その『花燃ゆ』の主人公 文の夫久坂玄瑞は蛤御門の変で自決(童門冬二「蛍よ死ぬな」)、奇兵隊を創った高杉晋作は維新を見ず病死(池波正太郎「若き獅子──高杉晋作」)、橋本左内は安政の大獄に連座し斬首(山本周五郎「城中の霜」)と無念の英傑たちが描かれる中で、異色は高杉を支援した商人白石正一郎を紹介する北原亞以子「炎」と、伊藤博文の知られざる畏友白石阿定(くまさだ)を語る荒山徹「長州シックス 夢をかなえた白熊」で、とくに後者はアッと驚く仕掛け型伝奇小説で個人的に一番惹かれる。長岡者の宿痾か長州勢にはどうも食わず嫌い?が先に立ちがちだったが、こうして見ると非業の夭折を余儀なくされた志士が多く、維新には彼らの怨念も込められているのかもしれない。250ページワンコインの手頃さ、大河初回までに好適。
末國さんありがとうございました!
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