我孫子武丸 麻耶雄嵩他参加 千澤のり子編『人狼作家』

千澤のり子編『人狼作家』(原書房10月刊)を読む。

http://www.harashobo.co.jp/new/shinkan.cgi?mode=1&isbn=05258-5

f:id:domperimottekoi:20151028014638j:plainミステリ作家集団による人狼ゲームの本…と聞き今度こそ書き下ろしアンソロジーだと勝手に思いこんでいた(『サイバーミステリ宣言!』のときもそうだった)が、またまた然に非ず、何と本格ミステリ作家&評論家10人(青崎有吾 我孫子武丸 天祢涼 乾くるみ 北山猛邦 千澤のり子 深水黎一郎 麻耶雄嵩 汀こるもの 遊井かなめ)がガチで人狼ゲームをやった記録の書であり、しかも全員匿名でやってるので誰が誰か判らない!…つまりこの本はプロの作家たちが如何に実戦的知恵比べを競ったか、と同時に読者自身が〈人狼〉の正体を推理し且つどのキャラがどの作家かを当てることができるかを楽しむ書なのだ。あまり類例を聞いたことのないそんな本が果たして本当にエンタテインメントとして成立するのかと内心危ぶまれた──と言うより自分自身がそもそも人狼ゲームなるものについてまるで無知なのが何より懸念だったが…少なくともその点は冒頭で詳しく解説されていたのである程度把握できた。がそれでもなお、他人がプレーした記録(ログと呼ぶそうだが)をオレみたいなゲームに疎いやつが読んで理解できるのか、あるいは面白いと思えるのか、依然懸念は残り…
…そんな思いを託ちつつ読み始めると、不安にたがわぬ点と思わぬ発見とが徐々に明らかに。予想通りだったのは展開されている推理と論理の理解がなかなかに難しいところ。参加者たちの配役が不明な中で〈人狼〉(※2匹いる)を会話のやりとりだけから探していくわけだが、その際「あいつはこう言ってるので怪しい」「いや、怪しいのは状況から鑑みて見せかけかも」というふうに他者の心理の〈読み〉と〈裏読み〉さらに〈裏々読み〉からまたさらにその裏を…という果てしない猜疑の連鎖が繰り広げられるので、考える力が乏しいとついていくだけでも大変になる。そんな中でも発見だったのはゲーム中のキャラ設定を参加者たちが終始積極的に活かし続けている(自ら楽しんでる)ことで、それが白熱する推理合戦に一抹ホッとさせる綾と艶を与えている(とくにいつも語尾に「トマト」をつける謎のトマト職人ギルギデスとか、いつも人形「クマさん」に頼る変な傀儡師ジュガッシュとか)…とはいえそのユニークなキャラ付け自体が当然ながら〈騙し〉の手口にもなっており、単純なオレは結局それに引きずられ最後まで騙されることにもなったのだが…そこが言葉による〈楽しませ〉と〈成りすまし〉に長じた推理作家の強みに嵌まったということかも。古来探偵小説とゲームは親和性がありその方面を得意とする作家が多いが、こと人狼ゲームに関してはこの本の参加者たちは意外にも経験者が少なかったらしく、そのためときとして憶測が過剰になったり逆に用心が浅かったりして、それが基で犠牲になる(=〈村人〉に処刑されたり〈人狼〉に食われたり)者もあり、一方でそういう過剰さや浅さ(饒舌さや寡黙さと言い換えてもいい)が虚偽である場合もあるので尚更ややこしい。…
…というようなわけで作家当ては10人全員など到底無理なので(※キャラがなぜか11人いる謎設定もあり)、せめて目星をつけた2人ぐらいとあとは人狼の片方だけでも…と目論んだが、結果は残念ながらことごとくハズレ、やはり門外漢の一朝一夕では難しいようだと思い知った。しかし騙される快感こそが本格ミステリの醍醐味でもあり、本書はそれが「ゲームの記録」という特殊媒体でも可能かを問う大胆な試みであるのは間違いなさそう(帯に「これは実験の書である」との綾辻行人の薦辞あり)──その点の考察は評論家に任せるとしても、兎に角ミステリにおける推理と心理の奥深さをあらためて突きつけてくれた書だった。最後にネタバレせぬ程度に付け加えれば…
…「エピローグ」で明かされる真相は驚かされるものであり、ガチのドキュメントでも本格ミステリ的カタルシスはあり得るかという本書の実験は成功と思う──まさに事実は小説より奇なりが例証された点において。

 

人狼作家

人狼作家

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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