岸田森『呪いの館 血を吸う眼』

5/25金 ラピュタ阿佐ヶ谷『呪いの館  血を吸う眼』(1971東宝 山本迪夫)   上京日観覧。

http://www.laputa-jp.com/laputa/program/kaikigensou/#06

(結末あり注意) http://movie.walkerplus.com/mv19350/

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↑ 左上 藤田みどり 高橋長英岸田森。一大傑作。前年の『幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形』のプロデューサーは田中友幸田中文雄 連名だが今作は田中文雄 単独で個人的趣味がより強く反映されている気味も。英ハマー映画の歴史的名作『吸血鬼ドラキュラ』(1958)の日本版を意識的に目指した作とのことだが 全篇に制作陣の力の入れ様が伝わる出来で 初の本格吸血鬼物邦画と言われる天知茂主演『女吸血鬼』(1959)を超える本邦での決定版を企図したようにも。大枠ハマー版(≒Bストーカー原作)踏襲──のように見せかけ乍ら その実よく観ればお話(脚本 小川英+武末勝)は大きく異なりとくに終盤明らかにされる秘密には工夫が凝らされ驚かされる。また岸田演じる怪人物も「ドラキュラ」等特定の名は付されておらず(海外向け英語題こそLake of Dracuraとされてはいるが) 「吸血鬼」という言葉自体中盤になってようやく躊躇いがちに1、2度台詞に登るのみで実はそうと断言されているわけでさえなく その辺りにも敢えてする企みの深さが窺える。…とは言え 棺に眠る日光を嫌う鏡に映らない等々ドラキュラ設定をオマージュ的に借りている点は瞭然だが。俳優陣では何と言っても岸田の超名演が語り草物だが 実はクレジット上も実質的にも主演は岸田でなく藤田みどり高橋長英ペア(ハマー版でもドラキュラ役クリストファー・リーではなくヴァン・ヘルシングピーター・カッシングが主演)。とくに藤田は単なるスクリーミングクイーンではない怜悧な魅力を漂わせ注目。高橋は巻き込まれ型乍ら力強く挑むタイプのヒーローを快演 ヘルシングよりジョナサン・ハーカーに近いかも。両者とも楽観的過ぎたり逆に徒に狼狽し過ぎたりしない点が大いに佳。藤田妹役 江美早苗も美貌発揮。別荘番役 高品格 怪しさ絶品。謎の老人役 大滝秀治 出番短い上に髭メークのため判然とせず惜しい。クライマックスの劇的さは監督 山本迪夫 十八番のようで 前作『血を吸う人形』をも上回る驚愕演出。

 

 

余談1 観覧後この機にとハマー版『吸血鬼ドラキュラ』3度目乍ら急遽 有料Youtubeにて視聴。気づいた最大の点は 意識して創った作とは言え ことスリル&サスペンスの手に汗握らせ度&息もつかせなさに関するかぎりこの『血を吸う眼』のほうが凌駕しているのではとさえ。とくにハマー版は実は中盤が意外と淡々としている(わけではないにせよ)ような節が見受けられるのに比し本作はその点に鑑みてか切迫で埋め尽くしているのが感じられ。またどちらも荘厳趣味の館が舞台の一部となるが ハマー版でのそれは実は非常に典雅美麗な内装で奇怪な要素があまりないのに較べ 本作の館は暗澹さ古怪さが濃厚。と言っても勿論こうした印象は10年以上の時代推移を経た後続作ゆえであり 本家の偉大さと価値が損なわれるわけではない。また有名な日本公開時のみにあったラストカットを田中文雄らはリアルタイムで観ていた筈で 岸田演じる怪人の最期が凄絶を極めるのはそれが念頭に置かれたためかも。

因みに問題の日本のみのカットを編入したハマー版のブルーレイが近年欧米で発売された由で その本邦オリジナル?版と新修正版を並列比較した秀逸な映像を見つけたので挙げておく ↓ 。後者は青系の色調が強過ぎ悪評もある模様。(※最重要シーンにつき未見の向きは要注意) ↓ 。

 

 

余談2 『血を吸う眼』の吸血鬼役は当初 岡田真澄が想定されたそうだが ヒロイン藤田みどりがその岡田とのちに結婚したのはある意味奇縁か。

また藤田の妹役 江美早苗は本作翌年女優引退し 作詞家 中里綴となって 南沙織の大ヒット曲「人恋しくて」を書いたとは今回検索して初知り驚き。

高橋長英は個人的に子供の頃視た『明智探偵事務所』(1972)中の「心理試験」での殺人犯役が衝撃的名演だった記憶が強くあるが この『血を…』がその前年と知り感慨新た。

 

もし岡田真澄がやっていたら全く違うものになっていただろうが(良否は別にして) 岸田森はこれにより邦画吸血鬼史最大のアイコンとなったわけで その意味でも重要作。

 

 

海外でも著名。スペイン語版ボスター ↓ 。

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