新派『犬神家の一族』(※若干要所觝触注意)
11/17(土) 初訪 新橋演舞場 千澤のり子さんのお計らいにより 犬神奉公会(*1)の末席に加えていただき 新派東京公演『犬神家の一族』観劇。
https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/2018_inugamike_enbujyo-2/
https://www.shochiku.co.jp/shinpa/news/181105.html
↑ 上段 左から 波乃久里子(犬神松子) 水谷八重子(宮川香琴) 喜多村緑郎(金田一耕助) 中段 左から 瀬戸摩純(犬神竹子) 浜中文一(犬神佐清+仮面) 春本由香(野々宮珠世) 下段 左から 河合雪之丞(犬神梅子) 田口守(古館恭三) 河合宥季(野々宮珠世) 佐藤B作(橘署長)。(※当日の珠世役は河合宥季)
観覧前に原作再々読&稲垣吾郎主演版ドラマ初見&古谷一行版再々見(石坂浩二版映画再々見は時間制約により事後に)。原作から各映像版への変奏&踏襲点等念頭にしつつ愈々新派劇初見。以下 深いネタ割りはせずも肝要点に触れるため未見の向きは注意。…
原作の大筋&過去の映像版で醸成されてきた雰囲気を踏まえる一方 諸点で新たな視点&大胆な試みが導入され『犬神家』史にまたひとつ転回点が生まれた感あり。脚色上の最瞠目は前半ラストに早くも真犯人が明示される点で この意外さの効果は極大(直後の長い休憩時間に後半への期待と危惧が観客の話題となったに相違なし)。ミステリーとしては当然リスクを伴う手法だが「観たことがなくてもわかるほど有名な作品」(=パンフレットでの浜中文一 談)なのもたしかで 観客の大半が原作&映像版に関して既知と思われることからすれば この果敢展開は実は寧ろ自然とも捉えられ 事実犯人探しに代わる新たな焦点を後半においてより劇的に追求していく端緒として奏効。
その〈新たな焦点〉(=人間の業の深さとでも呼ぶべき何か)の象徴となるのが 琴の師匠 宮川香琴(水谷八重子 演)の位置付けであり 登場人物面での最注目点ともなる。映像版では原作でのある重要な設定が割愛される場合が多い人物だが 今作ではそこを敢えて採り入れ 且つ演者に最重鎮 水谷を配すことにより 劇の全景にまで嘗てない凄味が刻まれる結果になったのはある意味最大の収獲と言えるかも。短い出番にも拘らず香琴の人物像が一面的でなく(この部分は原作以上のキャラ性)それに応える水谷の熱演が相俟ち 個人的には劇中最戦慄の場面。
群像劇の軸となる犬神一族では無論 長姉松子(波乃久里子 演)が最活躍するが 映像版で影が薄くなりがちな竹子(瀬戸摩純 演) 梅子(河合雪之丞 演)及びその家族も其々に持ち味発揮。「今回の脚本は全員に台詞があり」(=パンフレットでの波乃 談)とされ 6人の女中たちにまで一場面が充てられているのには感心(映像版のみならず原作でも 犬神家を陰で支えているはずの使用人たちにあまり光が当たっていないのを不満視していただけに)。
ただ そうした総力戦の余波もあってか 肝心の名探偵 金田一耕助(喜多村緑郎 演)がやや目立ち不足気味なのが惜。却って佐藤B作 演じる橘署長のほうが貫録と強声により狂言廻し感濃厚なのはご愛嬌。ジャニーズからのゲスト浜中が顔見せ少ないのは佐清役者の宿命でやむなしも 青沼静馬(浜中2役)交えての追跡劇&大立ち廻りで見せ場あり。
演出面では 回想場面複数箇所で舞台劇ならではの立体的構成があり また大掛かりなセットの変転も小規模劇場では成し得ない贅沢さで目を惹く。定番の湖面逆立ち死体も登場し どよめき誘う。
↓ 豪華パンフレット…
…は主要配役陣のコメントから有栖川有栖による原作者紹介に至るまで無駄のない作りが佳。最注目は脚本&演出 齋藤雅文 の「「犬神憑き」の人々」で 犬神家の崩壊を近代日本のそれに重ね「登場人物は皆(中略)愚かだが愛すべき人々」として「小説とも映画とも異なる感動を」と表明。その心意気は舞台上でたしかに結実と感得。
因みに出演者中 個人的に唯一観劇経験あるのは波乃久里子で 米倉涼子主演『黒川の手帖』(2006 明治座)での中岡市子役。男に従順な愛人役で 今般の犬神松子とは対照的な役柄を巧演。また近年名画座系での昭和映画群(1950~60年代)で屡々出会うのが水谷八重子。当時は二代目八重子襲名前の水谷良重 名義で 歌 踊り 芝居と万能エンタテイナーとして鳴らし ミュージカル物の一大傑作『踊りたい夜』(1963松竹) やミステリー物の隠れた秀作『夜の配役』(59松竹)等の主演で活躍。既見出演作は他に『夜の流れ』 (60東宝)『爛』 (62大映)『雲の上団五郎一座』(62東宝)『喜劇 とんかつ一代』(63東宝)『あばれ騎士道』(65日活)『銭のとれる男』(66大映)等。
終演後 犬神奉公会(*1)の皆さんと歓談会。
横溝正史 強者ファンの方々ゆえタジタジとなり乍らも 愉快話題噴出堪能。
観劇差配&幹事役 稲羽白菟さんより 新刊書『合邦の密室』(原書房)にサインいただき!
↑ 箸入れは横溝に因む店名。↓ 劇場で買った特製饅頭。
稲羽さん 皆さん ありがとうございました!
(*1) 犬神奉公会=『犬神家の一族』で言及される団体。『犬神佐兵衛傳』の発行元とされる他は ほとんど謎に包まれている。個人的にはダゴン秘密教団系かと臆測。
※参考エントリ ↓
『犬神家の一族』(2015.7.19 ※若干ネタ割り気味注意)
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