エル・ファニング『メアリーの総て』(※ネタバレあり注意)

12/28(木) 新宿 シネマ・カリテ『メアリーの総て』(2017 ハイファ・アル=マンスール)

https://gaga.ne.jp/maryshelley/

↓ メアリー(右 エル・ファニング)とパーシー・シェリー(左 ダグラス・ブース)。

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ブースがやや軽い気がしたが のちにそのチャラさ?が役柄キャラと合ってくると判明。

↓ 熱演の主演ファニングもいいが 最適役は異母妹クレア役 ベル・パウリ―(右)。

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↓ スイス〈ディオダティ荘〉でバイロンに捨てられたクレア(右)を慰めるメアリー。

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↓ 予告篇より 帰国後『フランケンシュタイン』出版に奔走するメアリー。

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総じて徒に怪奇味 耽美感 実験性等の方向へ走らず メロドラマ的側面を軸に手堅くまとめられ これはこれでありと。内外評判必ずしも芳しからずも 個人的には充分佳作。

 

 

ところで最関心は実のところ 主役3人より寧ろ 彼らと〈ディオダティ荘の夜〉を共にすることになるジョン・ウィリアム・ポリドリ(この映画ではポリドーリ)とバイロン卿ことジョージ・ゴードン・バイロンだが…

↓ ドン・ハーディ演じるポリドリは期待とやや異なり どこかもっさり感否めず…

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バイロン稚児説 根強い人ゆえ もっと美青年ぶり強調してほしい気が。ケン・ラッセル『ゴシック』での同人物が滑稽キャラ過ぎた憾みもあるだけに。『ボヘミアン・ラプソディ』ではロジャー・テイラー役( ↓ 左)のハーディだが… 素(右)が一番いい?

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↓ 『フランケンシュタイン』『吸血鬼』2大傑作生むメアリーとポリドリの共感。

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一方 バイロン役 トム・スターリッジ ↓ は カリスマ感 足りずこちらも惜。

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↓ メアリーらを〈ディオダティ荘〉へ導く。クレア(左端)のお腹にはバイロンの子。

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メアリーの父 ウィリアム・ゴドウィン役 スティーヴン・ディレイン ↓ は適。

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アナーキズムの始祖ゴドウィン唯一の邦訳小説『ケイレブ・ウィリアムズ』は社会派ミステリーの先駆とも。

 

 

映画では当然乍ら史実を変奏しており その点について12/22(土)SFファン交流会〈祝!フランケンシュタイン生誕200年 ゴシックからスチームパンクへ〉(『メアリーの総て』公開記念企画らしく) ↓ …

http://www.din.or.jp/~smaki/smaki/SF_F/

…で英文学者 市川純 氏がメアリーの血縁関係の設定相違について指摘していたが 詳細失念し残念。が映画では最初の子(クララとされていたが実際はその名は次女の模様)が幼時早世するが 史実では翌年長男ウィリアムが生まれディオダティ荘に伴ったそうで その点が本作では省かれており 市川氏はそのことを言っていたのかも? (たしか『ゴシック』でも子連れではなかったと)… また正妻ハリエットが「テムズ川で溺死した」とパーシーが言っていたが 史実ではハイドパークの池に入水。

最大の変更は 史実ではスイスから帰国後の1817年に脱稿した『フランケンシュタイン』が 前年のディオダティ荘 滞在中に書きあげられたとされている点で これは無論 劇的効果のためと。同様にポリドリも「『吸血鬼』を書き始めた」と発言しているが 実際にはバイロンの「断章」が先(おそらく滞在中)で ポリドリはその設定を借用して書くことに。また怪奇小説創作合戦発案の前にバイロンがコールリッジの詩「クリスタベル姫」やドイツ怪奇譚集『Fantasmagoriana』を朗読したとされるが そのあたりも映画では省略。

↓ ディオダティ荘での5人衆。

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因みに『フランケン…』は1818『吸血鬼』は1819其々初刊で 両者共自分の名前を出せなかった奇縁(その点は映画でも触れられている)。それでもメアリーは間もなく名声を得るが ポリドリはバイロンの名の陰に隠されたまま(フランス始め大陸側では劇化され大評判となっていたにも拘らず) 失意のうちに25歳で自殺という悲劇。

さらにメアリーの5人の子は次男以外夭折し クレアとバイロンの子も5歳で病死 そのバイロン自身も異国客死 パーシーは事故死と災厄が続き ディオダティの呪いとも…

 

 

 

『フランケン…』は青空文庫含め邦訳多種あるが 『吸血鬼』は 叢書〈怪奇幻想の文学〉(新人物往来社)『1 真紅の法悦』所収の平井呈一 訳 と 種村季弘 編『ドラキュラ・ドラキュラ』(薔薇十字社→大和書房→河出文庫)所収の佐藤春夫 訳(但し実質は平井訳の模様!) 及び 叢書〈書物の王国〉(国書刊行会)『12 吸血鬼』(須永朝彦 編)所収の今本渉 訳(目下の最新)の3種あるも 現状全て絶版 古書のみ。

ゴドウィン『ケイレブ・ウィリアムズ』は国書刊行会ゴシック叢書から 白水Uブックス編入され新刊入手可。

 

 

 

〈ディオダティ荘の夜〉を扱った映画としては やはり『ゴシック』↓ が最有名か。

他に『幻の城 バイロンシェリー』があるが未見。

 

『ゴシック』のアイコンとなっている悪夢図のオリジナルはフュースリの名画「夢魔」で 同作中ではディオダティ荘に飾られている設定だが『メアリーの総て』でも同様で しかもメアリーがその絵を見ながら亡母メアリー・ウルストンクラフトとフュースリとの悲恋に触れる(史実らしく)。この絵についても市川純氏が言及していたが そちらも遺憾ながら記憶朧。因みに「夢魔」には2種あり ↓ 映画はどちらも上の絵を採用。

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なお映画観覧に同行してくれた平戸懐古 氏が 上記 市川純 氏と知己と事後に知り驚き。

『メアリーの総て』パンフレット買い忘れ悔。

↓ ポスター 紫がかった邦版より オリジナルのほうがいと思うが…

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